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未来を支える読書 未来を支える読書
家族ふれあい読書「家読(うちどく)」運動の効用

家読推進プロジェクト代表 佐川 二亮

                                                      

 今では全国の学校で日常的な活動になった「朝の読書」。授業前の10分間、生徒と教師の全員が一斉に本を読む。読む本は自由、感想文や記録は求めないシンプルな読書法が、子どもたちに受け入れられた。「朝の読書」は1988年に千葉県の私立女子高校で社会科を教える林公教諭の提案と、体育担当の大塚笑子教諭の実践で誕生した。夢や希望を持てず心の荒みが進む中で、心の豊かさを育む実践を求めた結果、辿りついたのが一日10分間の読書だった。

 一日10分の読書でも毎日続けることで、子どもたちには様々な効果が現れた。特に集中力と読解力が身につくことで学力向上に成果をあげた学校は多い。「全国学力テスト」の結果を統計分析した広島大学大学院教育学研究科山﨑博敏教授は、「朝の読書の時間を設けている小・中学校は、設けていない学校より国語・算数・数学ともに正答率が高い」「読書が好きな児童は正答率が高い」「家や図書館で1日30分以上読書する児童の正答率は高い」「テレビやインターネットをする時間が短い児童の正答率は高い」ということを立証した。特に私が注目したのは、「親と学校での出来事について話をする児童生徒の学力は高い」というケースであった。「朝の読書全国交流会」でも、「朝の読書で読んだ本を親と話す生徒の生活態度は良好で学力も高い」という報告が多かったからだ。

 時代は少子化と電子メディアの急激な進化に子どもの生活と家族の実態も大きく変貌した。子どもは家庭に帰れば自分の部屋に籠って電子ゲームやインターネット、携帯メールに夢中。家族との団欒がなくなり会話が疎遠になったことから少年事件が著しく増加傾向にある。子どもが関わる事件の背景には家族のコミュニケーション不足が主な要因にある。子どもと家族がもっと話し合う場はどうすればできるのか。この命題が「家読」という家族ふれあい読書で誕生した。

 2006年11月。茨城県大子町の本が大好きな小学6年生6人にお願いして、「朝の読書」の家庭版はどうすればできるのかを語り合ってもらった。6人の子どもたちは「最近の大人は本を読まないから」と前置きし、大人を巻き込む素晴らしい家庭読書を考えてくれた。①家族で同じ本を読む②読んだ本で話す③感想ノートをつくる④自分のペースで読む⑤家庭文庫をつくる、5つの約束ごとになった。運動名は「家読」と書いて「うちどく」と読むことにした。この第1回家読子ども会議を12月20日付読売新聞全国版朝刊(広告特集)で社会へ発表した。家読運動の産声である。新聞効果は大きかった。「このような家族のコミュニケーションの取り方を初めて知った」「こどもと同じ本を読んで感想を話すことで気持ちが通じ合った」「家読が広がれば問題を起こす子どもはいなくなる」等々。翌年4月、茨城県大子町が「家読」を政策事業で取り組むことを記者発表した。6月には佐賀県伊万里市、8月には青森県板柳町も「家読のまち」を宣言した。現在、全国で数多くの自治体が政策事業で取り組み始めた。町づくりは人づくり家庭づくりからが原点だから。

 家読は難しく考えることはない。素材は「絵本」を家族全員でページを割り当てて音読するだけでいい。「絵本」には学校の教科書では学べない人間として生きていくための豊かな心を醸成するすべてのテーマが盛り込まれている。その絵本をみんなで手分けして読めばなんとなく感想が口をほとばしる。それがコミュニケーションの始まりである。絵本は幼児からお年寄りまで年代を問わないで共読できる。最後に秋田県大仙市の喜多康枝さんご一家の家読感想を紹介する。

 「わが家は長男が2歳を迎えた頃からクリスマスや誕生日のプレゼントは絵本という約束があります。今では50冊を超えました。まずこれを順番に読みかえすことから始めました。読む絵本を選ぶ人を決め、1行読み、1ページ読み、役柄別に交代して読みます。今では長女がみんなを誘うようになりました。来年1年生になる長女が感想ノートの記入を自分で書きたくて、必死に平仮名の練習をしています。家読はコミュニケーションを図る場であり、子どもたちの思いや素晴らしさを知り、発見する場でもあり、私たち親の考えを子どもたちに伝えることのできる大切な時間だと思います。15分程度ですが、言葉と心のキャッチボールをこれからも続けていきたいです」

 

佐川 二亮(さがわ つぐすけ)氏プロフィール

1947年福島県矢祭町生まれ。

現在、家読推進プロジェクト代表・子ども司書推進全国協議会・顧問・朝の読書推進協議会顧問。1995年に「朝の読書」提唱者、林公・大塚笑子教諭と共に「朝の読書」を全国の学校に広める運動に取り組む。200612月に「朝の読書」運動の延長として家庭での読書「家読(うちどく)」運動を立ち上げる。

主な著書

○「写真集作家の肖像」(影書房,1987

○「朝の読書はもうひとつの学校」(メディアパル,2005)など。