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ディスレクシアー読みが困難でも読書は楽しい

NPO法人エッジ会長 藤堂 栄子 

 

 読み書きの困難を覚えるディスレクシア(注1)の子供は、世界で文字を使用している文化の国々では人口の約10%いると言われています。一生治るものではなく、教育的には学習障害というよりも「学習方法の違い」ととらえる方が適切ではないかと思われます。その困難さは人によってまちまちで、主に読みのスピード、正確さと流暢さで測ることができます。

 他の知的能力は標準以上である場合さえもあるのに、読み書きに困難があると困っているのは本人なのに、「もっと頑張れ」「怠けている」などと言われ、学習意欲をそがれることも多々あります。

 学ぶことの入り口をふさがれたような状態ですので、読書に関して三つのことを念頭に支援をしていただきたいと思います。まずは読みやすくする工夫、次に内容が分かるような工夫、そして最後にその子の興味や得意に注目した本選びです。

 読みやすくする工夫は、アナログでもICTを使ってもよいと思います。例えば、色のシート(シートの色によって読む速度が3割でも早くなるのなら合理的な配慮)、フォント(アルファベット圏では飾りの少ないsans serif、日本語では丸ゴシックまたはメイリオ)、サイズ(12ポイント程度)、行間や言葉の間隔、紙の色(クリーム)、文字の色(インディゴ)などを変更することで読みやすくなります。その上で、単語ごとに〇で囲む、スラッシュを入れてチャンク化をする、大事なところにハイライトを入れるなどの工夫があげられます。昨年発行されたハリーポッターはディスレクシア仕様の版が点字版や音声版とともに発売されています。

 ルビを振ればいいという方もいますが、多くの当事者はそれはかえって邪魔であると答えています。ディスレクシアの人は漢字の意味が分かれば音に変換しないで読み進むことができる場合が多いのですが、ルビがあると新手の冠かと思い戸惑ってしまいます。選べるようにするといいでしょう。

 ICTを使うと、今では学年相当のルビだけをつけるようなソフトがあるほか、背景の色を変える、文字のフォントやサイズ、行間を変更できます。タブレットではピンチアウトすればあっという間に拡大ができますし、わからない言葉を選べば、音声で読んでくれることも辞書で意味を教えてくれることもあります。テキストを読み上げる機能も充実してきています。

 NPO法人エッジ(注2)では教科書の音声化をしています。BEAMと呼んでいますが、読み書きが困難な児童・生徒用に国語と社会科の本文を中心に用意しています。音声だけでMP3なので、色々な機器にダウンロードして使用ができます。

 次に、内容が分かるようにする工夫は、紙芝居や読み聞かせ、絵本やビデオ(日本昔話)などですでに内容が分かっているものがあげられます。また、身近な出来事と関連付けることや、写真などを糸口にしていく方法もあります。また読むことが辛そうであるなら音声化したものを先に聞かせて、そのあとでどんな話だったか聞いてみるとよくわかっていることがあります。文字を読むことにエネルギーを取られて、内容理解まで行かないことがあります。

 3番目の得意や興味のあることについては、関連した内容の読みものを勧める、または一緒に探すことができます。多少音読が違っていても自分が知りたい内容であれば楽しく読めるでしょうし、基礎的な知識がある分野の読みものであれば、その知識を使って、内容の理解にも役に立ちます。

 ディスレクシアの程度は人によって違いますが、全然読めないわけではありません。多くの場合は音読が不得意ですが、自分のペースで読めば読書は得意になることも多くあります。読書が苦手にならないためには強要しないことだと思います。赤ちゃんの頃から読み聞かせをしたり、図書館でよい図書に触れたり、落語や紙芝居などで物語の楽しさを覚えさせてください。文字を正しく読ませようと無理強いしないでください。代わりに、その子の想像力を掻き立てるようにして下さい。知的好奇心に応えてください。読みやすい、本人の興味にあった本を勧めてください。

 

 (注1)ディスレクシア:知的に問題が無く、聴覚・視覚の知覚的機能は正常なのに、読み書きに関しては特長の有るつまずきや学習の困難を示す症状のことを言います。

 (注2)NPO法人エッジ:ディスレクシアの正しい認識の普及と支援を目的とした特定非営利活動法人として、2001年10月に認定設立され、活動しています。

 

藤堂栄子氏プロフィール

現在、NPO法人エッジ会長。星槎大学特任教授。 (有)ToDo Planning代表。主な著書『ディスレクシアってなあに?』(翻訳、一部著作)明石書店、『ディスレクシアでも大丈夫』(著)『学習支援員のいる教室-通常の学級でナチュラルサポートを』(編著)いずれもぶどう社、ほか論文等多数。