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未来を支える読書 未来を支える読書
小学校での読み聞かせで大切なこと

杉並区教育委員・読み聞かせ講師 對馬 初音 

 

 「子供たちと本を出合わせたい」という思いから、多くの学校で読み聞かせが行われていることと思います。読み聞かせをする人は、先生、司書などもいるでしょうが、ボランティアとして関わっている人も沢山いるでしょう。先生に頼まれたから、友達に誘われたから、絵本が好きだから、など関わるきっかけは様々ですが、いざ始めてみると「子供たちが聞いてくれない」など、思っていた以上に大変だという声をよく耳にします。

 子供たちはお話の世界が大好きです。お話の中で、主人公たちと一緒に冒険を楽しんだり、空想の世界を広げたりすることで、子供たちの心が成長し、本の世界の楽しさを知ることができるのです。でも、子供たちは、自分でおもしろい本を探すにはまだ経験が足りません。

  読み聞かせをする大人たちは、聞き手の子供たちにぴったりの本を探すことが大切です。学校での読み聞かせは、お楽しみ会の時間ではありません。読み聞かせの時間を積み重ねる中で、聞き手全員が心から本を楽しみながら、それぞれの子供たちが力を伸ばす時間であってほしいと思います。そのため、読む本は選ばれた本でなければなりません。それは、子供の心に添って、子供の視点で作られ、子供の心を満たしてくれる本です。

  子供がその本と出合ったことで、心からの満足感を覚え、本の世界を信頼し、その後の読書につながるような本を選んでほしいのです。その場で子供たちが笑ってくれると読み手は嬉しくなり、次もそういう本を選びがちですが、大笑いしなくても、子供たちの心の中にしっかり届いていればいいのです。特に、朝の読み聞かせの場合には、1日の始まりですから、あまり重いテーマの本を選ぶことは避けた方がいいでしょう。逆に参加型の本を選ぶと、教室中が大盛り上がりになって収拾がつかなくなります。また、短い本を何冊も読むよりも、しっかりとストーリーのある本を届ける読む方が、子供の心に残ります。入学したばかりの1年生でも、『こすずめのぼうけん』(福音館書店)、『くんちゃんのはじめてのがっこう』(ペンギン社)、『おおかみと7ひきのこやぎ』(福音館書店)のような、その子たちに合ったいい本を選び、しっかり練習をして持って行けば、10分近くかかる本であっても、子供たちはちゃんと最後まで集中して聞く力を持っています。

 子供が満足する読み聞かせは、その後の読書につながります。特に低学年では、自分で読むのは難しくても1度読んでもらった本は比較的すらすらと読むことができるので、読み聞かせで出合った本を学校図書館で借りて行く子がたくさんいます。自分で読むのは苦手でも、読んでもらうことは大好きな子もいます。このような子たちにとっては、読み聞かせの時間はお話の世界に出合える貴重な機会であり、いい本をたくさん読んでもらう経験を積み重ねるうちに、「本は面白い」という本への信頼ができ、自分でも本を読むようになっていく子をたくさん見てきました。

  「読んでもらうと、誰が何を言っているのか、自分で読む時よりよくわかり、そのまま本の世界に入っているような気分になれる」「読んでもらった本がおもしろくて、おかげで本が好きになった」という感想をくれた子もいます。

  学校での読み聞かせは、きちんと選書をし、しっかりと練習をしていくことで、子供たちと本との架け橋になることができるのです。

 

對馬初音氏プロフィール

杉並区教育委員。学校司書。主に小学校で十数年にわたり、絵本の読み聞かせ、おはなしの語りを行っている。読み聞かせ等の講師としても活動。共著書に『小学校での読み聞かせガイドブック―朝の15分のために』(プランニング遊)がある。