子ども司書 もう一つの目標
子ども司書推進全国協議会理事長 高信由美子
東日本大震災からまもなく1年。3月には子ども司書第3期生が誕生する。子どもたちは震災を直視し、社会全体の中でものを考えられるまでに成長した。
「被災しているお友達を励ましたい」「被災地にお話しを届けたい」矢祭子ども司書会議の席上、子どもたちから自発的に出た言葉に感動が伝わってくる。
東日本大震災と福島原発事故の被害を受け、広野町の子どもたちが埼玉県三郷市瑞木小学校で学んでいることを知り、「励ましたい」と瑞木小学校で読書交流会が開かれたのは、2011年6月18日であった。子ども司書の一人は、「交流会では、恥ずかしくて大きな声で読むことができなかったのに、三郷市の大人からもありがとうと何度も感謝され、握手までして嬉しかった」と感想を語った。最初は、被災している子どもたちを「励まそう」と思った行動が広野町の子どもたちや三郷市の市民に感謝され、逆に自分たちが社会に役立っていることに気がついたことを物語っている。子ども司書は逆にパワーをもらって帰ってきた。
子ども司書制度は、子ども読書の街づくりを進める大きな柱として2009年に矢祭町で考案された制度であるが、現在では、全国の自治体や図書館等に急速に普及している。子ども司書制度は、対象者を小学4年生から6年生とし、もったいない図書館と小学校が連携して講座を担当し、一定の講座と研修を修了し、単位を取得した児童に「子ども司書認定証」が町長から贈られる。子ども司書は、友達や学校、家庭や地域で読書の楽しさを伝えるリーダーになってもらうのが目的である。1期生・2期生は、図書館サポーターとしても活躍の場を広げ、町内各集会所にあるもったいない文庫で読み語りもする。
「心の教育」という言葉があるが、人間には本来やさしい気持ちや、弱い人を助けていこうという性質があり、そういう価値観を身につける時期に、その機会を逃してしまうと成長してからでは中々身につかないとも言われている。社会の中で自分の存在を意識する小学校2年生くらいの時期から読書に興味を持たせ、4年生頃から子ども司書を通してたくさんの書物に触れることが重要である。子ども司書として成長した少年の事例がある。母親の愛情も薄く、兄妹からも疎まれた家庭環境で育った少年のはけ口は、学校で暴れまわり、同級生をいじめることであった。少年が子ども司書の受講を希望していることに関係者は驚いたが、子ども司書の仲間に自分が受け入れられているという安心感、図書館の職員や大人との交流の中で他人を信頼するようになった少年は見違えるほどに成長した。少年の大好きな本は「ヤクーバとライオン」である。少年は、やられたからやりかえすという報復の社会ではよくならないというメッセージをこの絵本から読み取った。子どもは信じられないほどに素晴らしい存在なのである。
今、全国学力テストの結果やPISAと呼ばれる学習到達度調査などから、読書する子どもは理解度が高いと裏付けられたのを契機に読解力を養成する学校が増えてきている。基本的な知識を中心にした読解力教育はもちろん重要なことであるが、成績向上のための読書であってはならない。子ども司書育成のもう一つの教育目的は、人間の基本となるコミュニケーション力を養うことである。それが生きる力につながっていくことを願っている。
子どもを取り巻く環境に危機感を持った自治体や図書館関係者が集まって2011年11月4日に青森県板柳町で第1回子ども司書推進全国研究大会が開催されている。
高信由美子氏プロフィール
子ども司書推進全国協議会理事長、元福島県矢祭町教育長。
2006年6月に寄贈本でつくる「矢祭もったいない図書館」を考案。町民ボランティアで寄贈本の整理を行い、2007年1月にオープンした。その後、町内25の地域集会所に「矢祭もったいない文庫」を設置し、「矢祭読書の町宣言」をする。
2009年6月より矢祭町子ども読書の街づくりを進め、全国初の「矢祭子ども司書」を創設し、家読運動を推進する。