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科学の本の読み聞かせのすすめ

科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」代表 吉田 のりまき 

 

 1冊の科学の本。そこから拡がる世界を自由に私たちは楽しんでいます。そして私たち大人が子どもたちと一緒になって本を読み、本を通じて暮らしの中の「?」や「!」を見つけていく。そういう科学コミュニケーションがあってもいいのではないかと思い、学校や図書館、科学館などで「よもう!あそぼう!かがくの本」という読み聞かせ活動を行っています。

 

<まず大人が科学の本を楽しんでいます>

 科学の本を読み聞かせするとき、たくさんの知識を伝えようと意識し過ぎていませんか。たとえば、ヒトの骨格をテーマにした場合、『ほね』(福音館書店)という本を選んだとします。多くの読み手は、人体の骨格、関節が動くしくみを子どもたちにしっかりと教えなければならないと感じています。ですが、私たち大人ですら関節の動きを詳しく知って日々体を動かしているわけではありません。本を読みながら、そういえばそうだなと手足を動かしてみたり、イカの軟骨を下ごしらえの時に抜くことを思い出したり、挿絵のように盛り上がった腕の筋肉をつまんでみたり、蝶番の扉を何度も開閉してみたり、そういう日々の暮らしや身の回りのことにつなげながら、ヒトの骨格や関節のことを再確認しています。そして新たに「ほんと?」と思ったことが「ほんと!」になっていくところに、科学の本の面白さを感じているのではないでしょうか。

 

<子どもの体験を増やし、体験を本につなげる>

 そこで、子どもたちにも同様に、科学の本と日常の出来事とが関連するような読み聞かせをしたいと思うようになりました。ただ日常体験がまだ少ないですし経験値の個人差が大きいので、それならばいっそみんなで同じ体験をしてその後に読み聞かせをしようと考えたのです。

 たとえば『みんなのくうき』(童心社)の場合では、袋に空気を素早く入れる方法を考えたり、空気で人を持ち上げてみたり、スポンジや土の中から空気をぷくぷく出してみたりしました。『みずたまレンズ』(福音館書店)では、一人一人が自由に水を1滴落として水玉をつくり、玉になる場合とならない場合を観察したり、水の入ったペットボトルをレンズ代わりにして文字や絵の見え方がどのように変わるのかを予測し、実際に確かめる実験もやってみました。

 このように、関連する実験や工作を行ってから本を読むようにしたところ、子どもたちの反応が大きく変わりました。たった今自分が見聞きし考えたことがそのまま言葉や絵となって読み手から伝えられるので、子どもたち一人ひとりが本に見入り、本の言葉に応えるかのようにじっくりと内容を聞いてくれるようになったのです。

 

<興味・関心の芽がどこにでも伸びてもいけるように、本から本につなげる>

 体験が加わる読み聞かせでは、同じ本でも子どもたちの興味や関心は十人十色です。大人が予想もしない方向に興味や関心の芽が出ます。そこで、できるだけ芽を摘まぬよう多岐にわたって関連する本を多数(50冊以上)用意しておきます。科学の本から科学の本へとつなげることで子どもたちの新たな「?」が「!」に変わり、さらに芽が大きく育つことを願っています。

 子どもの成長は早く、知識や体験が増えると同じ本でも異なった興味や関心を示します。だからこそ再び読んでもらえることを期待して、そのとき体験したことや関連する本のリストを1枚のシートにまとめて子どもたちに渡しています。科学の本は何歳になっても何度読んでも、新たな「?」や「!」に出会える楽しさがある、それを伝えていきたいのです。

 

吉田のりまき氏プロフィール

薬学部卒業 科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」代表
科学館や学校で科学実験/工作の講師や、科学関連の図書に共同執筆参加している。
NPO法人ガリレオ工房会員 JPIC読書アドバイザー NPO法人医学ジャーナリスト協会会員 全日本科学漫才研究会

「今どきの大人が受けたい保健理科」(ロハスメディア『ロハス・メディカル』に連載中)

[※ 科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」は平成21年度「子供の読書活動優秀実践団体」として文部科学大臣表彰を受けた]