東海学院大学 教授 アンドリュー・デュアー
読まないではいられない人もいる。私はその一人。
今もそうだが、友達に言われるほど、本を常に持っている少年でもあった。
小学生のころの自分の本棚には数冊しか本がなかったが、図書館に行けば、何万冊かある蔵書の中にはいくらでも読みたい本があった。読んでも、読んでも、読み切れないほどの本がずらりと並んでいたので、面白い本に飢えることはなかった。
そういう私は読まない生活を想像できないが、「読書より面白いことがある」から本をほとんど読まない子供や大人が多くいることも確かである。いけない!もったいない!と、とっさに思ってしまう。しかし、そういう思いは私だけの価値観なのか?読まないと本当にいけないのか?読むと何かいいことがある?
間違いなく、いいことがある!
読書の恵みというのは実に多様である。いくつかの例を挙げれば、①子供の語彙が大幅に増える。②言葉と読解力が発達する。③学力が高まる。④想像力と集中力が鍛えられる。⑤性格が人の気持ちを考えるように形成される。⑥感情や感性が発達する。⑦社会性が発達する。⑧人の気持ちが読める共感力が成熟する。⑨文脈理解力が鍛えられる。⑩経験の拡張ができる。⑪悩みを解消する力が身につく。⑫進路のヒントが得られる。⑬親などとの絆が深まる。⑭時間を楽しく過ごせるなどがある。
語彙と表現力を増やすには、読書が極めて効果的である。とくに、子供のころの読書は言葉の発達に非常に重要である。日常会話やテレビで出会う単語と表現はかなり限られているが、本を読むとその幅が飛躍的に増える。学校では読むことが学習の基礎となっているので、就学する前に語彙を増やさないと、必要な学びの土台ができないまま、後れが生じてしまう。
また、物語をたくさん読む人は登場する人の身になって、様々な感情を疑似的に経験し、人の心の作用をよく理解できるようになる。自分の生活で体験できないことを、本を通して体験できる。それは、疑似体験であっても、脳の処理の中で本物の体験と実質的にあまり変わらないからである。人情、感性、感受性、社会性、協調性、人の動機と気持ちを読み取る力などは、体験の種類と数で高まるのであれば、読書は近道である。
最近、若い人はモノを買うよりも、体験を買う傾向がある。それは、モノはいずれなくなるが、感動や体験の記憶は一生残るからだという。そして、読書を通して、より多くの冒険や旅などができる。本物の体験でなくても、読書によって想像力を使った分、感動の記憶は本物に勝るとも劣らないものである。
しかし、テレビやスマホなどに夢中な子供たちを放っておけない状況になりつつあるなか、自分はともかく、本を読む子供を育てるにはどうしたらいい?まず、本のある環境を作ることである。子供たちが本に興味を持つには、大人のよい見本が必要である。本のない家では、読書をしたくてもできない。本を読まない親に「読みなさい」といわれても、説得力があまりない。自分が楽しく読んでいる姿を子供に見せることが最も効果的であろう。
小さい子供は素直に本が好きだが、高学年や中学生になると友達に見せる姿が気になるので、読むことが格好いいと思わなければ、しないかもしれない。しかし、友達が楽しくやっていることにひかれる心理を活かせば、読書を流行させることができるはずである。その効果を狙う「子ども司書制度」(注1)は子供同士で読書の楽しさを伝えるリーダーの養成を目指す。図書館の仕組みや司書の仕事、本の紹介法などをしっかり習った子供司書は得た資格を握って、自分の学校に戻って、読書の伝道師として活動する。
家や図書館で過ごした読書の時間は一生の財産になると思う。自由な読書は楽しければ、「勉強した」と感じないけれど、休み明けの授業とか、会社の会議とかで、「あ、それは分かる。図書館で読んだことがある」といえる自分が、格好よく思えるよ。
さあ、読書のよさがこんなにあるなら、子供を誘って、読んでみよう!
(注1)「子ども司書制度」(家読推進プロジェクト公式ホームページより 外部リンク)
アンドリュー・デュアー氏プロフィール
昭和36年、カナダ・トロント市生まれ。
トロント大学大学院で図書館情報学修士を取得。昭和63年に来日し、平成4年3月に慶應義塾大学大学院図書館情報学研究科後期博士課程修了。現在、東海学院大学教授(図書館学)兼図書館長および同附属東海第一幼稚園園長。子ども司書推進プロジェクト代表。国内外で紙飛行機やペーパークラフトの著作35冊以上。