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未来を支える読書 未来を支える読書
学校図書館を活用した授業の実践について

帝京大学教育学部初等教育学科 教授 鎌田 和宏

 

1.新しい時代の学校教育では読書・学校図書館活用が重要

2020年から順次、新学習指導要領が完全実施となる。「主体的・対話的・深い学び」を授業改善の指針にあげられている。この指針に従って、新たな小・中・高等学校教育が展開していく。子どもが関心を持つような主題を取り上げ、活動的・協働的な学習活動を位置づける事によって、能動的な学びの姿勢を醸成し、学び方を自覚して深く学んでいくことを目指す。これは新たな時代に必要な資質能力を育てる事に貢献するであろう。しかし、これまで指導されてきた学習内容はほとんど削減・整理されず、校種によっては新たに追加されたことまでもあるという過積載状態の教育課程編成基準となっている。これについては、各学校がカリキュラムマネジメントを実施することによって、学校教育目標を軸に整理・統合することが求められているのだが、果たしてそれがうまくいくか心配である。

学習指導要領総則には、何が起こるか分からない時代で生きるために必要とされる資質能力育成のための中核能力として、①言語能力②情報活用能力③問題発見・解決能力があげられている。この三つの能力の基盤になるのは①の言語能力である。基盤となる言語能力を育てつつ、言語能力の発揮が前提となる情報活用能力や問題発見・解決能力が育てられるように教育課程を編成するには、読書を勧め、読書の習慣を形成し、学校図書館を活用して読書活動・探究活動を位置づけた学習を展開することが鍵であると私は考えている。私と同様の考えを持ち、実践研究協働に取り組まれている学校、市区、県の実践から、その具体像を以下紹介したい。

 

2.読書を勧めることが学びの基盤をつくる

情報を活用したり問題解決的な学習を展開するためには、言語等で記述された情報源から、求める情報を得ることが基本となる。その時、言語を利用して情報を読み取ることに慣れていないと、大量の情報から必要情報を抽出し、理解することが困難である。最初は自分の興味のある主題、好きな主題でよい。本を読むことに慣れ、習慣化していけば、必要となる時に、長文にも取り組む端緒が形成される。

独力で本を読めるようになることは難しく、時間がかかる。周囲の勧めや支えが長期にわたって必要である。子どもの周囲にいる教師や学校のスタッフが、その子どもの読書実態を知り、常に、長期にわたって働きかけ続けることが必要である。

 

3.学校図書館を活用し読書活動・探究活動を位置づけた学習を展開する

①読書活動を位置づける

本が読めるようになると、教師は安心して読書指導の手を緩めてしまうことが多いようである。しかし、より広く、そして深く読めるようになっていくためには常に働きかけが必要である。その一つとして、読書活動を学習活動に位置づけ、子どもの読書興味を強め、広げ続けていくことが必要である(ここでいう読書活動とは、読書経験を基盤に、学習活動としての読書活動を経験することによって、より広く深く読んでいこうとする学習活動をいう。詳しくは拙著『入門情報リテラシーを育てる授業づくり』58〜63頁)。

荒川区立第三日暮里小学校(大山祐子校長)で4年生の国語科「落語発表会を開こう」の授業を参観した(2018年5月)。先生の落語実演を導入に、子どもたちの興味を喚起し、もっと落語について知りたいという意欲を持たせ、落語の本を手に取らせて、味見読書(短時間、時間を区切って多くの本を試し読みする)から本格的な読書へと誘う授業であった。3年生までの子どもたちの読書実態を捉え、読書の幅を広げるために設定された単元であったが、子どもたちが楽しげに、また集中して次々に落語の本を手にし、読んでいた姿が印象的な授業であった。荒川区は区教委に学校図書館支援室を設け、区内全小中学校に学校司書を配置し、上記の様な学校図書館を活用した授業の具現化にも熱心に支援を行っている。

 

②探究活動を位置づける

読めることを活用し、その有用さを実感できるのが探究活動である。総合的な学習の時間の学習指導要領解説には、探究的活動の実施が示されているが、総合だけでなく、教科でも探究的活動の諸プロセスを位置づけ、指導することは可能である。江戸川区立小松川第二小学校(五十嵐一嘉校長)で参観した5年生社会科の授業では食料生産に関わる諸産業について、子どもが自分で課題設定をして探究していく授業を参観した(2018年9月)。自分の問題意識に応じて選んだ図書資料から、求める情報を情報カードに書き取り、カードを材料にミニ新聞を構成していた。このような学習活動にとりくんでいくと、日常的に読書に取り組み、慣れていることの有用性が実感でき、さらに多く、精緻に読めるようになりたいとの思いが募る。江戸川区は読書科を設け、子どもの読書習慣の形成と探究的な学習の実施に力を入れている。

 

4.教育課程に位置づける

3.で述べたような取り組みが位置付き、子どもたちの資質能力の形成に貢献するためには、長期にわたって計画的に取り組むことが求められる。教育課程に読書活動・探究活動が位置づけられ、実践されることが必要である。島根県松江市の学校図書館支援センターは各学校の教育課程の編成、年間指導計画の作成の参考となるように「学び方指導体系表〜子どもたちの情報リテラシーを育てる〜」を作成し、どのように読書活動や探究活動を実施していけばよいかを示し、これを元に実践研究を行っている。鳥取県教育委員会学校図書館支援センターは「学校図書館を活用する事で身に付けたい情報活用能力」を示し、幼稚園・保育所・認定こども園から高等学校までに学校図書館を活用して身に付けさせたい能力の系統を示し、県下各学校の教育課程編成・年間指導計画作成の参考としている。

 

おわりに

今回の学習指導要領の改訂では総則が大きく変わった。総則の内容がよく理解されれば、読書の指導、学校図書館の活用の重要性が理解されることだろう。学校図書館長としての校長のリーダーシップの発揮の元、全教職員が協力して学校図書館を活用した読書習慣の形成と探究的な学習の実施に取り組むことが重要である。

 

鎌田和宏氏プロフィール

東京学芸大学大学院修士課程教育学研究科社会科教育専攻修了後、東京都公立学校教諭、東京学芸大学附属世田谷小学校、筑波大学附属小学校教諭を経て、現職。

専門は教育方法、社会科教育、情報リテラシー教育。授業研究にもとづいた学校図書館・情報メディアを活用した情報リテラシー教育の研究に取り組んでいる。

主な著書に『入門 情報リテラシーを育てる授業づくり 教室・学校図書館・ネット空間を結んで』、『教室・学校図書館で育てる 小学生の情報リテラシー』(いずれも少年写真新聞社)がある。