本の世界は楽しい~発達障害のある子供と本とのかかわり方~
NPO法人えじそんくらぶ代表 高山 恵子
発達障害のある子供たちにとっても、読書から得られることはもちろん一般の子供たちと同じですので、小さい頃から本に親しむことは大切です。ただ、それぞれの特性によって「一般的なイメージの読書」がうまくいかないことがあるかもしれません。子供たちの特性を見極めて、一人一人に合った本とのかかわり方をすることで、ぐんと成長することでしょう。
「発達障害のある子供」は大きく分けて、3タイプを想定するとよいでしょう。1点目は、本を読むのに抵抗感が少ないタイプです。多くはASD(自閉症スペクトラム障害)タイプの子供たちです。2点目は、本を読み始めてもすぐに飽きて、お友達に話しかけたり教室をうろうろしたりするタイプです。多くはADHD(注意欠陥多動性障害)タイプの子供たちです。3点目は、文字を読むことが苦手なタイプです。多くはLD(学習障害)タイプの子供たちです。
一人でじっと座って、静かに黙々と本を読むという一般的なイメージの読書ができるのは、ASDタイプの子供です。彼らはどちらかといえば本を読むのが好きな子が多く、文字がたくさんある本でも学童期前から読める子もいます。ですが、物語系ではなく電車や虫の図鑑などに興味を持つ場合が多いです。
LDタイプの子供には、年齢が高くても絵本の読み聞かせが有効です。彼らは文字を読むのが苦手なので、絵が内容理解のために大切なのです。アメリカにはホール・ランゲージという手法があります。これは読み書き能力の育成には絵本から入るのがよいとされるもので、あいうえお順に文字を覚えるのが苦手なLDや飽きやすいADHDタイプの子供たちに有効だといわれています。
読み聞かせでは、「読み手が読むのを子供たちはじっと座って、黙って聞かなければならない」という伝統的なやり方を強制するとうまくいかないことがあります。LDやADHDタイプの子供たちに有効なのは、ただ聞いているだけではなく、疑問や意見を自由にシェアし合うような進め方です。お話の途中で子供から先生に質問したり、感想を言ったりするのもOKです。意見や感想をシェアしたり、質問する時間をとるのもいいですね。先生もお話の途中で、「主人公はこのときどんな気持ちだったと思う?」など、子供たちのイメージ力や共感性を育むような質問を投げかけてあげるとよいでしょう。
注意が必要なのは、ASDタイプの子は、登場人物の気持ちが分からないこともあるということです。それでもOKという雰囲気をあらかじめつくっておくということが大切なポイントです。どんな感想であっても間違いではなく、子供たち同士が「この子はそう思ってるんだね」とお互いの感想を受け止め合えると、とても素敵ですね。またASDタイプの子には見通しが重要なので、「まずこの本を読みます」「そのあとみんなで感想を話し合います」「何分ごろ終わります」など、会の流れを紙に書いて貼り出しておくと、安心できるでしょう。
多動な子供は、じっとしているのが苦手です。途中でみんなで一緒に動いたり、ストレッチしたり、歌ったりするのもよいでしょう。いきなり話し出す子もいるかもしれません。ほかの子供たちの邪魔にならないように「声のボリュームはゼロ」とか、「発言するときは手を挙げよう」というような基本的なルールを貼り出し、事前に確認しておくと良いでしょう。
皆さんは学生時代、授業の内容よりもふと脇道にそれた話の方が印象に残っていることはありませんか?子供が質問したり、話しかけてきたときはチャンス!と思ってください。率直な発言や質問を大切にすることで、子供たちに気づきを促すことができるのです。これは「ティーチャブル・モーメント=教え時」といって、アメリカでは大切にされている概念です。ぜひ「いい質問だね」と子供の好奇心を受け止めてあげてください。「本の世界は楽しい」というイメージを持てると、主体的に本に親しむようにもなるでしょう。
高山恵子氏プロフィール
NPO法人えじそんくらぶ代表。 ハーティック研究所所長。
臨床心理士、薬剤師。
玉川大学大学院教育学部 非常勤講師。昭和大学薬学部 兼任講師。
昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。
アメリカトリニティー大学大学院修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)、同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。
児童養護施設、保健所での発達相談やサポート校での巡回指導で臨床に携わる。
AD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心に、ストレスマネジメント講座等、大学関係者、支援者、企業などを対象としたセミナー講師としても活躍中。また、中央教育審議会専門委員や厚生労働省、内閣府などの委員を歴任。
これまでの経験を生かし、ハーティック研究所を設立。