発達障害のある子供への読書支援
宮城学院女子大学 教授 梅田 真理
私は本が大好きです。そもそも活字を読むことが好きなので、新聞も好きです。漫画も大好きなのですが、以前、あるお母さんから「うちの子は読むことが嫌いで、漫画も読まないんです」と相談されました。「絵は見るけれど、すぐ飽きてしまうんです。」ということでした。私は「でも、絵を見ているなら文字も目に入っていますよ。漫画でもいいので、まずは『読むこと』を好きにさせましょうよ」とお話しした記憶があります。
世の中が変化し、スマートフォンやタブレットPCが誰でも持てるようになり、耳から入る情報は溢れています。活字離れが激しいと言われますが、それは子供にも言えるのでしょうか。
私はちょっと違うように思います。小学校の入学式で、新しい教科書をもらうとき、どの子も目を輝かせて教科書を見つめます。中には、我慢できなくてそっと開いてみる子供もいます。その瞬間は、子供たちの中に「早く読みたい」という、教科書への興味があふれるほどあるはずです。
一方で、小学校も高学年になると、「読むことが苦手」「本は嫌い」という子供も出てきます。これはなぜでしょうか。どこで、子供の気持ちが変わってしまうのでしょう。私は、大人が子供たちの特性に早く気づかないために、子供の意欲を削いでしまっているのではないかと思います。
子供たちの中には、持っている能力に差があり、バランスよく力を発揮することが難しい子供もいます。「発達障害」とは、そうしたいろいろな能力のバランスの悪さを抱えた子供の総称と捉えていただくとわかりやすいかもしれません。自閉症やLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥/多動性障害)などが含まれますが、読み書きや計算などの学習面や、注意集中や人とのやりとり等において困難がある子供が多いです。けれど、こうした子供たちも、やはり入学時には学習意欲がたくさんあるはずです。
しかし、例えば読むことに困難があれば、読み聞かせには興味が持てるけれど、自分で読むことが難しい場合もあります。また、読めてはいても、文字情報だけでは内容の理解が難しい子供は、挿絵等がなければ内容を十分に理解できないかもしれません。集中力が持続しない子供は、内容に興味があっても、最後まで読み続けることが難しい場合もあるでしょう。周囲にいる大人がそのことに気づかず、「最後まで読みなさい!」とか「ちゃんと読まないからわからないんでしょ」などと叱責を続ければ、子供の読みたい気持ちは失せてしまうかもしれません。
子供の周囲にいる方々にお願いしたいことは、自分の物差で子供を見るのではなく、子供にはいろんなタイプがいること、それぞれの子供にあった対応や本との関わり方があることを知っていただきたいということです。
文字を読むことが難しくても、読み聞かせは大好きな子供もいます。また、最初に読み聞かせてもらうと、最初から一人で読むよりスムーズに音読ができる子供もいます。これらのタイプの子どもには、視覚障害のある方々が利用される、DAISY図書※なども活用できる場合があります。挿絵を見ながら、文章と対応させて内容を理解する子供もいます。仕掛け絵本のように興味を引く工夫があれば、最後まで読み続けられる子供もいます。また、読み物よりも図鑑や辞書が好きな子供もいます。
大切なことは「読むこと」や「本」を嫌いにさせない、ということです。社会で生きていくためには、学習にも生活にも文字情報は欠かせません。新しい情報を与えてくれたり、未知の世界について知らせてくれたり、本はいろんな事を教えてくれます。
ぜひ、子供の興味に沿った、そしてひとり一人に応じた本との関わり方を見つけてあげてください。そうして、徐々に子供自身が自分にあった本との関わり方を身につけていけるよう、手伝ってあげてください。
※DAISY(デイジー)図書:もとは視覚障害者のために開発された録音図書。DAISY はDigital Accessible Information System の略で、日本では「アクセシブルな情報システム」と訳される。
梅田真理氏プロフィール
宮城教育大学教育学部 言語障害教育教員養成課程、岐阜大学教育学部教育専攻科卒業後、宮城県立の養護学校へ赴任。その後仙台市立小学校 特殊学級、通級指導教室を担当し、平成16~20年に仙台市健康福祉局へ出向。仙台市発達相談センター主査として、年長児から高校3年生までの相談業務を担当。平成21~27年、(独)国立特別支援教育総合研究所に総括研究員として勤務。平成28年4月より、宮城学院女子大学に勤務。