乳幼児と絵本のたのしい出会いのために
東京子ども図書館 内藤 直子
人生のはじめに、よい物語にたのしく出会うことは、子どもにとって一生の宝になります。
私は長いこと図書館員として、子どもたちと一緒に本を読んだり、おもしろい本を薦めたりしてきて、それを実感しています。けれども、たのしくてたまらないというように、どんどん本の世界に入っていく子もいれば、はじめには、あまり言葉の世界に遊べない子もいます。小学3年くらいになって、「うちの子はちっとも本を読まないのですが…」と、おかあさんに連れられてくる子もいます。
どの子も本当は本が好きなのだから、本を一生の友だちにできたら、どんなにいいでしょう。そのために、子どもたちを見ていて感じていることと、参考になる本を、ここでご紹介します。
<絵本の前に大切なこと>
あるとき、数人の乳児に向かって絵本を読み聞かせている場面を見て、おもしろいと思ったことがあります。赤ちゃんたちがそろって、絵本という四角い“物”でなく、話しかけてくれる人の顔に注目しているのです。
身近な人と関係を築いていく基礎を育む、この大切な時期に、まずは、スマホなどから目を離し、しっかり子どもと視線を合わせて、心地よい声、響きのよいことば、リズムのあることばを、ともにたのしみましょう。そのために力を発揮するのが、わらべうたです。
私の勤務する図書館で、親子で遊ぶわらべうたの会を始めてから、「わらべうたで遊んでいると、子どもがとても喜んで、機嫌よくなるので、子育てがたのしくなった」という、うれしい声も寄せられました。親子の関係がよいものになり、ことばが、人と人をつなぐ快いものになると、自然に絵本にも関心が向いていくようです。そして、それを待って、ゆっくり絵本に向き合う方が、次の読書につながっていく例もよく見ました。
☆『ことばの贈りもの』松岡享子著 東京子ども図書館刊
☆“図書館で遊ぶわらべうた” 内藤直子著「こどもとしょかん111号」東京子ども図書館刊
☆“聴いて遊ぶ子ども 遊んで変わる大人” 森島瑛子著「こどもとしょかん136号」同上
<何よりいいのは、読んでもらうこと>
子どもにできるだけ早く字を読むことを教え、幼いうちから自分で読ませようとする親御さんをよく見かけます。実は、ここで本嫌いになる子どもが多いのです。
読書には、「字」をひとつずつ読めることより、ことばの響きや物語をたのしめることの方が、ずっと重要です。物語のたのしさを味わえるようになるのに、いちばんいいのは、何といっても読んでもらうこと。まずは、好きなだけ読んでもらって、耳からの読書をたのしみましょう。そのたのしさが原動力となって、自然にどんどん自分で読むようになっていきます。
大好きな人から読んでもらった思い出は、ずっと子どもの心に生き続けます。そして、ただ聞いているだけのように見えて、子どもの心の中では、大きな精神活動がおこなわれています。
☆『えほんのせかい こどものせかい』松岡享子著 日本エディタースクール出版部
<すぐれた絵本こそ、子どもにふさわしい>
たくさん読んでもらっても、心に響くたのしさがなければ、子どもは本から離れていきます。子どもたちに長い間読み継がれてきた絵本には、子どもを本の世界に誘う力があります。あっという間に過ぎ去る、大切な子ども時代に、すぐれた絵本を選んで読んでやりましょう。子どもと長年本を読んできた経験から選んだリストもあります。
☆『私たちの選んだ子どもの本』東京子ども図書館編・刊
☆『絵本の庭へ』東京子ども図書館編・刊
内藤直子氏プロフィール
東京生まれ。学生時代に 石井桃子著『子どもの図書館』岩波書店 を読んで、児童図書館員になることを志す。
東京大学工学部図書館、東京都立中央図書館、清瀬市立図書館を経て、1995年から公益財団法人東京子ども読書館に勤務。児童室やお話の講習会講師、人材育成などを担当している。
日本図書館協会児童青少年委員会委員、国立音楽大学、新潟大学、聖徳大学非常勤講師などを歴任