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未来を支える読書 未来を支える読書
探究的な学習を支える読書指導の充実に向けて

日本女子体育大学教授・附属図書館長 稲井 達也

 

1.読書活動から読書指導への転換

読書活動では、小学校では読み聞かせ、中学校では朝の10分間読書、高等学校では書評合戦(いわゆる「ビブリオバトル」)が中心に行われています。

2001(平成13)年に子どもの読書活動の推進に関する法律が施行されたのを受け、学校では読書の楽しみを共有し、読書行為を促す読書指導の一つとして、様々な読書活動が普及しました。

しかし、読書活動は、あくまでも児童生徒の直接的な読書行為を中心にしたものではありません。読書活動の多くは、読書材が児童生徒の自由な選書に委ねられており、物語・小説が読まれています。

いわば娯楽的な読書を中心に読書習慣を身に着けることを目的にしていますが、読書活動の質的転換とともに、実社会・実生活に生きて働く資質・能力の育成を視野に入れた読書指導も模索すべきです。

 

2.読書ガイダンスが大切

中学生は児童書では物足りず、一般書では難しすぎるため、選書が難しいという面があります。発達段階といっても成長の差は大きく、中学生として一括りにすることはできません。生徒に身近な学校図書館は、自校の生徒の実態に即しながら、推薦図書コーナーを設けたり教科と連携したりするなどにより、生徒が本に関する情報を入手できる機会を増やし、生徒自らが本を選べるように働きかけていくことが大切です。公共図書館では、ヤング・アダルトのコーナーを設けることも必要です。

また、高校生は、話題になったベストセラーや映像化された本を読む傾向がみられます。中学生にも同様の傾向がみられます。もちろん、そのこと自体を否定するわけではありませんが、ベストセラーや映像化された本ばかりではなく、様々な本との出会いが実現できるように、学校図書館の工夫はもとより、公共図書館内にも高校向けのコーナーを設けるなどの取り組みが欠かせません。

残念なことに、学校の読書指導の成果を生徒の読書冊数で測る自治体が見られます。中には貸出冊数が少ないと校長が指導を受ける事例もありますが、貸出冊数はあくまでも生徒の読書行為の一面であって全てではないのです。むやみに貸し出し冊数を増やすことよりも、読書ガイダンスに力を入れ、読書の質を高めることを優先するべきです。読書指導の質的な側面に焦点を当て、読書ガイダンスの充実を図ることが、子どもたちの主体的な読書を促すための第一歩にほかなりません。

 

3.探究的な学習における読書を指導・支援する

次期学習指導要領には、特に高等学校において、探究的な学習の重視が盛り込まれました。例えば、総合的な学習の時間は総合的な探究の時間に変わります。また、国語科では古典探究が新設されるほか、新たに理数科が新設され、理数探究基礎、理数探究という選択科目が設けられました。文科省指定のスーパーサイエンスハイスクールなどの探究的な学習に対応した改訂にもなっています。

近年、高校と大学の学習を接続させる(高大接続)という観点から、学校独自に探究的な学習の科目等を設け、生徒が1年間かけて大学のゼミのように研究活動に取り組む学校が多く見られます。これまで研究活動は伝統的な進学校や中高一貫校では多く見られましたが、新規参入する高校が急増しています。また、一般の教科指導の中でも探究学習の課題を出す高校も多くみられます。

これらの学習活動を支えるためには、ICT環境も含めた学校図書館の整備・充実が欠かせません。専門家としての学校司書の支援や司書教諭と学校司書の連携が一層重要になっています。 娯楽的な読書においても、本の読み方として、目次、奥付、著者紹介などの情報活用の方法、資料検索などのスキルは欠かせません。探究的な学習でその必要性は一層高まっています。

 

4.学校図書館と公共図書館の連携を図る

次期学習指導要領では、社会に開かれた教育課程の実現が示されています。学校教育にも社会教育の視点、すなわち生涯学習の視点が欠かせないのです。学校の蔵書には限りがあります。

多様な読書活動、あるいは探究的な学習における調査・研究的な読書においても、学校と公共図書館が緩やかに連携を図り、サーピスの向上に努めることが大切です。学校と公共図書館の双方にとってwin-winの関係が築けるはずです。

むしろ、学校だけで児童生徒の読書指導を請け負うのでは、窮屈になってしまいます。だからこそ、社会全体での読書支援を通して、関係機関がゆるやかに連帯したり連携したりし、<未来に生きる子どもたち>をみんなで育てていくことが求められています。

読書を通して、社会の多様性を考え、そして実現していくことは、大人たちと子どもたち双方にとって、大切な視点ではないでしょうか。

 

稲井達也氏プロフィール

上智大学文学部国文学科卒。博士(学術/筑波大学)。25年間にわたり、3校の都立高校、東京都教育委員会、都立小石川中等教育学校(開設準備室から8年間勤務)、での勤務を歴任し、2012年より現職。

専門は、国語科教育学、学校図書館学。戦後の国語科における読書指導を主な研究テーマとしているほか、新聞などのメディア及び学校図書館等を活用したリテラシー育成の教育内容・方法の開発にも取り組んでいる。

主な著書に、『高校授業「学び」のつくり方―大学入学共通テストが求める「探究学力」の育成』(東洋館出版社)『資質・能力を育てる学校図書館活用デザイン―「主体的・対話的で深い学び」の実現』(学事出版)、『主体的・対話的で深い学びを促す中学校・高校国語科の授業デザイン—アクティブ・ラーニングの理論と実践—』(学文社)がある。