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未来を支える読書 未来を支える読書
「味見読書」で自分自身の「名作」の発見を

中野区立中野中学校教諭 熊倉 峰広 

  どのようにして読書好きな子どもが育ち、どんな環境だと本嫌いになってしまうのでしょうか。子どもの読書について、どの学校でも共通して見られる傾向がありました。それは、本好きな子どもが大勢育っている学級と、本を読みたがらない子が圧倒的に多い学級があることでした。学年が進むにつれてそれは顕著になってきます。

 

<「味見読書」誕生のきっかけ>

普段本を読まない生徒たちに理由を聞くと、その多くは「読まず嫌い」であることがわかってきた。だが、世の中でどんなに評判が高い本であっても、それを無理に(最後まで)読むことを強要したのでは、更に本が嫌いになってしまう。また、「何でもいい。」とか「好きな本でいい。」と言って放っておいてもいけない。本に接する機会の少ない生徒たちほど、自分自身でも自分の「好きな本」が分からないことが多く、自力で自分に相応しい本を探せないからだ。
そこで、生徒たち一人一人が、彼ら自身にとっての「名作」に巡り会い、それに親しむことを最大の目標にして「味見読書」を開発した。これは、「最後まで読まなくてよい、つまらなければ他の本に移ってよい。」と断って、生徒たちに見合いそうな本(後に、「課題図書」と称することにした)を十数冊薦めてみると、終わりまで読まなくてよいと知った生徒たちは、安心して読書をするようになった、という経緯から誕生した読書指導方法である。


 

<実際の手順>

「課題図書」を選んだら、1作品につき1枚ずつ紹介のためのプリントを自作する。そこに作者の経歴や作品の粗筋、創作にまつわるエピソードなどを盛り込み、授業で生徒たちの興味が喚起されるよう努める。ひと通り全ての「課題図書」を紹介した後は、生徒が「課題図書」の全てを手に取れるだけの冊数を図書室に揃えて、授業中に少しのページだけでも順繰り全ての本を読むことができるようにする。受け持ちの全クラスにこうした時間を設けているから、一人が1冊に関われる時間は5分くらいのものである。食べ物に喩えれば「味見」みたいなものだったので、いつの頃からか、生徒たちから「味見読書」と呼ばれるようになった。

 

<次のステップへ>

  「味見読書」によって生徒たちの主体的な「読書」の成立に手応えを感じたら、次のステップとして生徒相互の読書内容や感想の交流を試みる。 読書というものは、基本的には個人的な行為である。人それぞれ読み方や感じ方に違いがあっていいからだ。だが、それは各自が情報として他に発信するべきである。「味見読書」においては、同じ時間に同じ本を読んでも、味見する場所(ページ)は決して同じではない。始めのところを捲る生徒もいれば、真ん中や終わりの部分を味見している生徒もいる。例え同じところを見たにしても、味わいの仕方は、やはり個々によって異なることが多い。自分一人では味わえなかった場所や味わいなどを、他の生徒から情報として得ることが出来れば、当然、その作品に対する見方が変わってくることもある。
 そこで、生徒たちには自分が読んで面白かった箇所や印象に残ったところなどをメモさせ、それをお互いに交換していく。 こうした「味見読書」を通した交流によって、生徒たちが互いに共鳴している様子がひしひしと伝わってくる。

 

<教科書の「読書案内」などの利用>

 このたびの教科書では、「読書案内」などに掲載された本が、以前より大幅に増加された。  そこで、それらの本を「味見読書」の「課題図書」として有効活用することもできる。前述した「紹介のためのプリントを自作する」ことなく、教科書の「読書案内」のコーナーに書かれている「本の内容紹介」などを読み合わせすることで、それぞれの本に対する第一印象を持たせることが可能である。その後、これまでの「味見読書」の方法で実践していけば、一味違った効果が期待できるかもしれない。

 

熊倉峰広氏プロフィール

・昭和56年、東京都公立中学校教諭(国語)として着任。平成26年4月より東京都中野区立中野中学校に勤務。

◆その他の肩書
日本児童文芸家協会評議員、日本学校図書館学会理事、日本子どもの本研究会理事、全国学校図書館協議会参事、東京都学校図書館協議会理事、東京都朝の読書連絡会事務局員

◆受賞歴
平成14年7月、読売新聞主催「第51回読売教育賞優秀賞」受賞 ほか

◆発表歴
日本学校図書館学会主催「平成24年度 学校図書館フォーラム」→「新・味見読書の実践と研究」(平成25年2月16日)  ほか

◆著書
<単著>
・『「味見読書」で本離れが無くなる!』(明治図書出版、平成15年5月)
・『中学校の声を聞いて!』(教育出版センター、平成10年3月)
<共著>
・『力のつくことばの学習50のアイデア』(教育文化研究会編、三省堂刊、平成12年7月)
・『力のつく古典入門学習50のアイデア』(教育文化研究会編、三省堂刊、平成16年8月)
・『子どもの読解力がぐんぐんのびる!』(合同出版、平成21年12月)

・『新・どの本よもうかな? 中学生版 日本編』(子どもの本研究会編、金の星社刊、平成26年3月)
・『新・どの本よもうかな? 中学生版 海外編』(子どもの本研究会編、金の星社刊、平成26年3月) ほか

◆雑誌掲載
・「私の平和を考える本5冊」(全国学校図書館協議会『学校図書館』平成22年7月号)
・「『朝の読書』に最も不可欠なもの」(教育開発研究所『教職研修』平成15年10月号)
・「『朝の読書』に最も不可欠なもの」(教育開発研究所『教職研修』平成15年10月号)
・「『味見読書』が「読書」への意識を変える」(日本国語教育学会編『月刊国語教育研究』平成16年1月号)
・「味見読書」で感想を交流し、考えを深める(東京法令出版『月刊国語教育』平成20年12月号)
・「中学生もハマる絵本」(全国学校図書館協議会『学校図書館』平成20年12月号)